令和2年度 卒業証書学位記授与式を挙行いたしました

  • 2021.3.29
  • イベント

令和2年度 卒業証書学位記授与式を挙行いたしました

 令和3年3月20日(土)、本学体育館において令和2年度卒業証書学位記授与式を挙行しました。

 修了生、卒業生のみなさま、また保護者のみなさま、おめでとうございます。

 広島文教大学で、夢の実現に向けてそれぞれに研鑽を積んだ大学院人間科学研究科修了生2名、人間科学部卒業生240名が、大きな志を胸に学び舎を巣立って行きました。

 本学教職員一同、修了生、卒業生のみなさまのご活躍とご多幸を心よりお祈りいたします。

 

学長式辞

理念ある「学び」の果実を、社会のために

 

 本日ここに、令和2年度広島文教大学並びに広島文教大学大学院の卒業証書・学位記授与式を挙行するにあたり、学部卒業生240名、大学院修了生2名の皆さんに、心よりお祝い申し上げます。また、今日の日を待ちわびておられたにも関わらず、残念ながらご臨席を賜ることができなかった保護者、ご家族の皆さまにも、心よりお慶びを申し上げます。

 皆さんの学生生活最後の一年となった今年度は、新型コロナウイルスの影響により、各地で多くの行事が中止や延期を余儀なくされました。この広島文教大学も例外ではありません。しかし私たちは、皆さんが真摯に歩んできた2年乃至4年の勉学の道に対する心からの敬意を以って、十分な感染対策を施しつつ、本式典の挙行を選択しました。そのことを、まずお伝えしておきます。

 皆さんは、本日、所定の学業を修了し、輝く未来に向けて羽ばたいていくこととなります。この時に当たり、実社会への一歩を踏み出す皆さんに、はなむけの言葉を贈りたいと思います。

 

◇危機の時代

 皆さんが実社会に踏み出すこれからの人生は、地球全体の、全人類に関わる変革を目の当たりにする時間となります。その変革は、歓びに満ちたものばかりではないかもしれません。

 昨年のアメリカ合衆国大統領選挙が、政治的な主義・主張を異にする人々の間に深刻な亀裂と分断を生じたことは記憶に新しいところです。私たちが「正義」と信じて疑わなかった民主主義が綻びを露呈した、歴史的事件であったと言えます。また、自らの利益を優先する国家間の鋭い対立は、近年いっそう深刻の度を増しています。その結果、人類の活動が地球環境そのものに甚大な影響を与えているという、疑うべくもない科学的事実に対してすら、私たちは解決に向けた一致点を見出せずにいるのです。そして、いままさに私たちが直面する新型コロナウイルス感染拡大という事態は、近年声高に叫ばれてきた「グローバル化」の負の側面が実体化したものと言えるでしょう。

 

◇社会の危機と向き合う知恵

 この感染症の拡大は、政治的な境界線などウイルスの脅威の前には意味をなさないことを、図らずも炙り出しました。地球規模の人の移動がもたらした感染の世界的な広がりはもとより、このウイルスを巡る怪しげな言説の拡散、SNS上の誹謗中傷、「感染収束の切り札」と言われるワクチンの、国家レベルでの奪い合いなど、一連の事態は、「グローバル化」の本質的部分に存在する負の側面と直接に繋がり、その名のもとに整備された交通手段や情報網を介して、私たちの身辺から世界の隅々にまで、その余波を広げ続けています。

 これらの危機的事象を分析的かつ総合的に捉える学問的知見を、私は持ち合わせていません。しかし、先人の言葉の中に、時代の危機に向き合うためのヒントを探ることはできます。

 カリブ海フランス領マルティニック島出身の作家エドゥアール・グリッサンをご存じでしょうか。私は、優れた研究者の概説書に導かれて、彼の著書のいくつかに触れました。彼は、アフリカ大陸に由来する自らの血筋や、奴隷貿易による収奪の歴史を価値づけなおし、2011年に亡くなるまでに、世界と向き合う術を示唆する重要な著述を残しました。その思想的な柱の一つは、例えば1969年の著作の次のような言葉に端的に表れていると、私は理解しています。即ち、

 

今日、われわれに必要なこと。それは他に立ち向かう共同体ではなく、他との関係にある共同体を肯定することだ。

L’Intention Poétique/中村隆之『エドゥアール・グリッサン〈全-世界〉のヴィジョン』より)

 

 この世界から、自分と異なる者を排除し、消し去ることはできません。そうであるならば、「自分と異なる他者の存在を知り、認め、その尊厳を守りながら他者を肯定できる関係を築くことこそが人としてのあるべき態度である」と、エドゥアール・グリッサンは教えているのではないでしょうか。

 10年前の東日本大震災や、その後に打ち続いた大規模災害に際して人々が示した深い友愛の精神を、私たちは事あるごとに思い起こすべきです。

 

◇理念ある「学び」が、人と社会を支える

 皆さんがこれからの人生の中で困難に行き当たったとき、2年乃至4年の学びとともにあった、学園歌を思い返してほしいと思います。創設者が作詞した学園歌2番の歌詞にある「行学一如」という言葉は、一つひとつの行いそのものが学びであるという、学修者の理想の姿を表わす言葉です。そして創設者は、この行学一如に続けて「平和と文化」を培うという誓いを謳っています。

 また、この学園での学びの根底には、良き人の育成を誓った平明率直な「心を育て 人を育てる」という理念がありました。皆さんの学修が、先のグリッサンの言葉の底流にある精神とも響き合う、普遍的な理想によって紡がれていたことに気づくでしょう。その誇りを胸に、この広島文教大学で身に付けた行学一如の精神を忘れず、良き人として、この困難な時代を乗り越えていってください。広島文教大学で学び過ごした時間は、必ずやそれを可能にします。

 最後になりましたが、皆さんのご健勝とご多幸をお祈りし、式辞といたします。

 卒業、修了、おめでとう。この広い世界のどこかで、またいつの日か、お目にかかれると信じています。

 

令和3年3月20日

広島文教大学長 森下要治