• 2020.3.25
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令和元年度卒業証書学位記授与式 学長式辞

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 3月20日、令和元年度卒業証書・学位記授与式を挙行しました。今年度は新型コロナウイルス感染症への対策を十分に講じ、内容を変更・短縮の上、卒業生、修了生と教職員のみで行いました。

                           「危機の時代」こそ、理念ある真の「学び」を

 本日ここに、令和元年度広島文教大学並びに広島文教大学大学院の卒業証書・学位記授与式を挙行するにあたり、学部卒業生251名、大学院修了生3名の皆さんに、心よりお祝い申し上げます。また、今日の日を待ちわびておられたにも関わらず、残念ながらご臨席を賜ることができなかった保護者、ご家族の皆さまにも、心よりお慶びを申し上げます。

 本年3月は、感染症の影響により、各地で多くの行事が中止や延期を余儀なくされました。しかし広島文教大学は、卒業生、修了生の皆さんが真摯に歩んできた2年乃至4年の勉学の道に対する心からの敬意を以って、本式典の挙行を選択したことを、まずお伝えしておきます。

 皆さんは、本日、所定の学業を修了し、輝く未来に向けて羽ばたいていくこととなります。この時に当たり、実社会への一歩を踏み出す皆さんに一言、はなむけの言葉を贈りたいと思います。

 

◇危機の時代

 皆さんが夢の実現に向けて歩みを進める実社会では、人類が営々と積み上げてきた社会の仕組みが、様々な局面で綻びや限界を見せ始めています。

例えばBrexitと呼ばれるイギリスのEU離脱の混乱が示すように、民主主義による政治はいわゆるポピュリズムと紙一重の危うさを露呈し、超大国の覇権主義的動向は、世界全体にその脅威を及ぼしています。

 また、現代社会を支える産業や経済のシステムが地球環境そのものに深刻な影響を与えていることは疑うべくもない科学的事実ですが、この人類共通の環境問題に対してすら、解決に向けた一致点を見出せずにいるのです。

 このような地球全体の危機的状況の中で、我が国では少子高齢化に歯止めがかからず、自然災害にあえぎ苦しみ、疲弊・縮小が加速化する経済や社会の状況に対していまだ有効な政策を打ち出せずにいます。

 そして、新型コロナウイルス感染症によるパンデミックが、いままさに私たちの日常生活そのものを脅かしています。

 

◇社会の危機と向き合う知恵

 この感染症の拡大は、政治的な境界線などウイルスの脅威の前には意味をなさないことを、図らずも炙り出しました。そして私たちは、この危機的事態に関わる情報を、国境を越えて、ほぼ即時的に得ています。交通手段の発達と、革新的に進歩した情報技術。感染症拡大に伴う現実の個別的側面は措くとして、この危機的事態は、間違いなく現代社会における「グローバル化」の本質的部分と直接に繋がっていると見るべきです。だとすれば、今般の感染症のみならず、世界中で発生する自然災害や政治・経済の課題、紛争などといった危機的事象は不可避であり、私たちは今後もこれらと向き合っていかねばなりません。

 感染症や自然災害に関する科学的知見や、人類の活動を分析的かつ総合的に捉える社会学的知見を、私は持ち合わせていません。しかし、先人の言葉の中に、時代の危機を克服するためのヒントを探ることはできます。

 1990年、分裂した祖国の統一に精神的支柱として重要な役割を果たしたドイツ大統領、リヒャルト・フォン・ヴァイツゼッカーは、後に「言葉の力」と名付けられる1993年の演説の中で、文化は政治において重要な地位をしめる本質的なものであるとして、次のように語っています。

 隣人が自らの文化に認めている意義を理解することは、隣人と同時に自らをよりよく理解することでもあります。そういう人は隣人を尊敬するようになり、隣人を見ず知らずの人間とか敵であるとみなすことはなくなります。

   (永井清彦編訳『言葉の力 ヴァイツゼッカー演説集』岩波現代文庫)

 ヴァイツゼッカーは、他者を理解し、自らをよりよく理解しようとする人、すなわち真に良き人による「平和に向けての力強い歩み」を訴えています。

 

◇理念ある「学び」が、人と社会を支える

 皆さんがこれからの人生の中で困難に行き当たったとき、2年乃至4年の学びとともにあった、学園歌を思い返してほしいと私は思います。創設者が作詞した学園歌2番の歌詞にある「行学一如」という言葉は、一つひとつの行いそのものが学びとなっているという、学修者の理想の姿を表わす言葉です。そして創設者は、この「行学一如」に続けて「平和と文化」を培うという誓いを謳っています。

 そしてまた、この学園での学びの根底に、「心を育て 人を育てる」という、良き人の育成を誓った平明率直な理念があったことにも、思いを致してください。皆さんの学修が、先のヴァイツゼッカーの言葉の底流にある精神とも響き合う、普遍的な理想によって紡がれていたことに気づくでしょう。その誇りを胸に、この広島文教大学で身に付けた「行学一如」の精神を忘れず、自立した女性として、そして何よりも良き人として、この困難な時代を乗り越えていってください。広島文教大学で学び過ごした時間は、必ずやそれを可能にすることと思います。

 最後になりましたが、皆さんのご健勝とご多幸をお祈りし、式辞といたします。

 卒業、修了、おめでとう。扉を開けて、行ってらっしゃい。

 この広い世界のどこかで、またいつの日か、お目にかかれると信じています。

 

                令和2年3月20日        

                                                                                     広島文教大学長 森下要治