令和4年度卒業証書学位記授与式を挙行しました

  • 2023.03.24
  • お知らせ

令和4年度卒業証書学位記授与式を挙行しました

 令和5年3月20日(月),本学体育館において令和4年度卒業証書学位記授与式を挙行しました。

 修了生,卒業生のみなさま,また保護者のみなさま,おめでとうございます。

 広島文教大学で,夢の実現に向けてそれぞれに研鑽を積んだ大学院人間科学研究科修了生1名,教育学部卒業生154名,人間科学部卒業生239名が,大きな志を胸に学び舎を巣立って行きました。

 本学教職員一同,修了生,卒業生のみなさまのご活躍とご多幸を心よりお祈りいたします。

 

  

 

 

 

学長式辞

困難な時代を歩みゆく卒業生に向けて

 

 本日ここに、令和4年度広島文教大学並びに広島文教大学大学院の卒業証書・学位記授与式を挙行するにあたり、学部卒業生392名、大学院修了生1名の皆さんに、まず心よりのお祝いを申し上げます。また、諸事ご多忙の折、本式典にご臨席を賜りました、内閣総理大臣 岸田文雄先生秘書 田邊博之様、本学園の武田義輝理事長を初め、ご来賓の皆様方に感謝の意を表しますとともに、今日の日を待ちわびておられた保護者、ご家族の皆さまにも、心よりお慶びを申し上げます。

 この3年間、新型コロナウイルスの影響により、私たちがこれまで当たり前に行ってきた社会生活上の習慣の見直しが迫られました。また、それに伴って、各地で多くの伝統的な行事や大規模なイベント等が中止や延期を余儀なくされました。この広島文教大学も例外ではありません。そうした中、私たちは、この感染症に関する社会情勢や行政による判断を踏まえつつ、2年乃至4年に及ぶ皆さんお一人お一人の真摯な学びに対する心からの敬意を以って、十分な感染対策を施しながら本式典を挙行することを選択しました。そのことを、まずお伝えしておきます。

 皆さんは、平成31年4月に大学名称を広島文教大学と改めた本学男女共学の第1期生として所定の学業を修了し、いま、卒業の時を迎えられました。この門出に際し、実社会への一歩を踏み出す皆さんに、はなむけの言葉を贈りたいと思います。

 

◇「大学時代」という特権との別れ

 この大学生活の中で、皆さんはそれぞれの学科や専攻に所属して、将来への夢を胸に抱きながら専門的な学修を深めたことと思います。信頼できる恩師に導かれ、親しい仲間に囲まれたキャンパスは、掛け替えのない学修空間であったはずです。また、学外実習、ボランティア活動、クラブ・サークル活動、さらには身近な人間関係など、大学生活のさまざまな局面における多様な学修が、皆さんの人間性の彫琢に資するところ大であったことと思います。

 いわゆるコロナ禍による多大な制約が生じたとはいえ、皆さんの2年乃至4年の学びの多くは、大学時代であるからこその特権がもたらしたものであると言えます。とすれば、卒業という今日の節目は、この大学時代の特権を手放す時でもあるわけです。

 

 

◇「予測困難な時代」の学び

 現代は、「予測困難な時代」であると言われています。昨今の社会状況を見ても、感染症の広がりや環境破壊、貧困問題や地政学的なリスク等、将来を見通すことの困難な課題が山積しています。そしてその一つひとつが、私たちの日常にも直接の影響を及ぼしています。

 予測困難、すなわちこれから先に何が起こるか、今後どのようになっていくかわからない時代に支えとなるのは、やはり「学び続けること」です。学び続けることによって、激しく移り変わる時代状況に適応し続けることができるからです。この学び舎を巣立ち、独り立ちする皆さんは、何よりもまず学び続けることの大切さを改めて肝に銘じなければなりません。そして同時に、社会に出てからも学び続け、予測困難な時代の状況に適応し続けなければならないのはいったい何のためなのか、さらに一歩踏み込んで、その根本を考えてほしいと思います。

 何のために学び続けるのか―この問いに対して、皆さんはどのような答えを準備するでしょうか。

 

 

◇一人ひとりが「この世界の未来」のために

 イギリスの文化思想家 ローマン・クルツナリックの著書『グッド・アンセスター』の中に、北アメリカ先住民族の一つであるアパッチ族のある格言が引用されています。すなわち、我々は先祖から土地を受け継ぐのではない。子どもたちから土地を借りるのだ。

(ローマン・クルツナリック、松本紹圭訳『グッド・アンセスター』)

 子どもたちから土地を借りているという彼らアパッチ族の言葉の背景には、当然ながら、借りたものはそのままの形で、あるいはより良い姿で子どもたちに返す(つまり、子どもたちの世代に遺し、受け渡す)という意識が強固に存在しているはずです。グッド・アンセスター、すなわち「よき祖先」というタイトルの本書は、このアパッチ族の例を引きつつ、長大な歴史的スパンの中で現代の我々の時間感覚を相対化し、いまこの時だけに価値を置く短期的な思考がこの世界そのものの未来を蝕む要因の一つになっていると警鐘を鳴らしています。

 先の問いに戻ります。

 何のために学び続けるのか―紹介したアパッチ族の格言は、この問いに対する答えの一つとして十分な価値を持っていると、私は考えます。予測困難な時代であるからこそ学び続けなければならないのは、それが単に私たち一人ひとりの幸せな人生をもたらすからだけではなく、未来の世代により良い社会、より良い世界を遺し、受け渡してゆくことが大切だからです。この北アメリカ先住民の残した言葉は、昨今世界的な潮流としてにわかに叫ばれ始めたSDG’sの理念をも、象徴的に言い当てていると思われます。

 皆さんお一人お一人が、未来の世代により良い世界を遺し、引き継いでいく責務を負った、現代社会の一員なのです。

 

 

◇理念ある「学び」が、人と社会を支える

 ちょうど4年前、皆さんを本学に迎えた入学式に際し、自らの豊かな人生を実現するための学びだけでなく、社会との関わりの中で自らの果たすべき役割を確かに見据えた学びを修めてほしいと、私は皆さんにお伝えしました。その折に、創設者の遺した次の言葉を紹介しています。

 社会の正常なる発展は、帰するところ人であります。本学園の教育指針は、この人づくりであります。

 創設者 武田ミキは、教育の力で学修者一人一人の力を十分に伸ばし、有為な人材として社会に送り出し、もって社会の正常な発展に資することを願っていました。それを最も端的に表したのが、皆さんが親しんだ「育心育人」という教育理念なのです。創設者が考えた「社会の正常なる発展」とは、まさに次の世代に受け継ぐべき「より良い社会、より良い世界」を意識したものと言えましょう。

 先ほど述べたとおり、「未来の世代により良い世界を遺し、引き継いでいく」という社会の一員としての責務を忘れずに日々学び続けることは、予測困難な時代を生きる私たちすべてに突き付けられた課題ですが、この広島文教大学で過ごした時間と、皆さんの内に息づく育心育人の理念は、この困難な時代を乗り越えることを必ずや可能にしていくはずです。

 

 

◇コロナ禍がもたらしたもの

 卒業の時期を間近に控えた2月、私はここにいる皆さんの中のあるグループが主催された音楽会に出席しました。その際に配られたパンフレットの挨拶に、次のような言葉が記されています。

 私たちは大学4年間のうちの3年以上を、新型コロナウイルスの影響を受けながら過ごしてきました。悔しくて涙を流す日もありましたが、その分、音楽の素晴らしさや人との繋がりの尊さ、当たり前の幸せをこれまで以上に感じられるようになりました。

 これは恐らく、ここにいる皆さんすべてに共通した思いでしょう。この言葉に接し、皆さんの成長を感じるとともに、さまざまな制約を皆さんに強いざるを得なかった日々を、私は痛恨の念と共に思い出さずにはいられませんでした。しかし、いわゆるコロナ禍の出口が見え始めたいま振り返ってみれば、皆さんが涙を流した我慢の日々や、私たちが歯噛みしながら下した苦渋の決断の一つ一つは、社会全体でコロナ禍に打ち勝つためにそれぞれの立場で責任をもって振舞った、欠くべからざる取組みであったと意味づけておくべきかもしれません。この未曽有の災厄を乗り越えた皆さんには必ずや新たな輝かしい未来が待っているものと信じ、共にコロナの時代を耐え、乗り越えた仲間であるという強い連帯感をもって、今日私たちは皆さんをこの学び舎からお送りします。

 

 最後になりましたが、皆さんのご健勝とご多幸をお祈りし、男女共学が成った広島文教大学の栄えある第1期生をお送りする式辞といたします。

 卒業、修了、おめでとう。この広い世界のどこかで、またいつの日か、お目にかかれると信じています。

 

令和5年3月20日

広島文教大学長 森下 要治